【働き方改革!こんなところに優良企業】株式会社アン【さかにゅー求人】:

は、注目の優良企業を紹介するコーナーです。働き方改革でキラリと輝く魅力を放つようになったその秘密を探ります。
その第一回は株式会社アンさんです。南大阪を中心に美容室「ann」を多店舗展開し、昨年は新しいブランドとしてママになった従業員も活躍するママサロン「annie」を立ち上げました。離職率の高さに悩まされがちな業界にあって、驚異的な定着率だというアンさんはどんな働き方改革を行ったのか。社長の築林篤司さんと、常務の原隆之さんにお話をお聞きしました。

 

■ハサミを置いて“経営”に取り組む

▲代表取締役社長の築林篤司さん。

――従業員の定着率が高い秘密は一体何なのかをお聞きしたいのですが、二つのブランドの採用の仕方も、新卒を中心とした「ann」と中途採用の「annie」と分かれていて、それぞれしっかりしたコンセプトがあって運営されているようですが?
築林「『“より美しく”を通して笑顔を広げたい』という理念が、まず弊社の基本になっています。この理念は、お客様の笑顔があって、従業員さんの笑顔がないのはおかしい、という思いから生まれたものです。働く人も笑顔にならないといけないし、企業ですから適正利益をあげて納税するのも使命ですし、地域社会にも貢献しないといけない」
――その思いはいつ頃から抱かれるようになったのですか?
築林「まだ美容師としてよそに勤めていた時から常に問題意識がありました。お客様、従業員さん、関係業者さんを含む社会、三方良しの経営になっていないと、何か違和感を感じながら働いていました。変わり者で生意気なやつでしたね。結局、自分の思いを実現するためには、自分で城を作るしかないと平成元年に26歳で独立して店を持ちましたが、失敗の連続でした。4年目、29歳の時に2店舗目をオープンした時も、時間が無いのに無理をして知り合いに頼んで人をかき集めて、人で苦労したりしました。それでも当時はカリスマ美容師ブームで、調子に乗って5店舗で(従業員)50人まで行った。その頃でしたね。私がハサミを置く決意をしたことが起きたのは」
――一体何が起きたのでしょうか?
築林「2001年(平成13年)のことでした。50人いた従業員のうち、20人もが一年で辞めたのです。その年に原が入ったのですが、原の最初の仕事はその対応でした」
原「そうでしたね。毎日のように離職手続きの業務をしていましたね」

それまでの築林さんは、自分がハサミをふるうことに夢中で、人材教育を一切してこなかったのでした。人気の美容師、美容室としてお客様に支持されていたけれど、半数近い従業員にそっぽをむかれる結果が待っていました。ショックを受けた築林さんは、大きな決断をします。

▲常務取締役の原隆之さん。改革を始めたばかりで反発の多い頃には苦労も多かったようです。「原が盾になってくれました」と築林さん。

築林「喋ったこともない、顔も良く知らない従業員もいて、そこに問題を感じていたのですが、朝から夜まで仕事をしているので、どう解決していいのかわからない。それで2002年(平成14年)にハサミを置きました。そこからが経営者としてのスタートで、ようやく経営の勉強を始めたのです」
――そこから会社の再生も始まったのですね。
築林「まず全社員との個人面談を一時間ずつやりましたね。それまで喋ったこともない相手で、向こうも緊張してますから、初めてのお見合いみたいで話は弾まなかったですね。新入社員研修を始めたのもその頃です。2週間、技術の練習じゃなくて、考え方や価値観の研修です。最初の頃はやっているうちに話すこともなくなって、ビデオを見せたりしていました」
――新入社員の方も、ハサミを握らない研修に驚いたでしょうね。
築林「そうですね。変化するのに3年ぐらいかかりました。大体3年、5年、7年で何か変化がありましたね」

 

■戦略を現場に浸透させた10年

▲お客様に丁寧なカウンセリングを。

――理念を掲げても、それを具体化するのは簡単なことではないですよね。
築林「それは戦略の部分ですね。私たちは創業2~3年目から『高付加価値戦略』を取っています。平成元年はインフレで、その後はバブルが崩壊しデフレの時代でしたが、世間に関わりなく高付加価値戦略を続けました。安売りも多い中、単価の高い仕事をして美容師としてのやりがい、誇りをとことん大事にしていこう。短時間の中でも、単価が高いと売り上げも上がるし、給与も上がる。お客様にとって、もちろん安いことはいいことでしょうけれど、質のいいものを求めるのも本能です。いいものはいいと、JR九州の超高級列車『ななつ星』も大人気ですよね。私たちの仕事は『美』の仕事です。機能的に考える方もいますけれど、もっと美しくなりたいと考える方は絶対数いるでしょう。そこを追及していくことで目にとまるはずだと考えたのです」
――単価を高めるというのは、たとえばどういうことで?
築林「たとえば私たちは商品の店頭販売も強いんです。あるメーカーの商品をメインで使っているのですが、そのメーカーの商品販売コンクールでは6年連続日本一だったこともあるのです」
――そのメーカーさんにしても嬉しい話ですよね。
築林「はい。美しくなってお客様も笑顔、働いている人も笑顔。関係業者さんも潤う」

 

――それでも現場に浸透させるのには、何年もかかったのですね。
築林「構想を作る大変さ以上に、現場に落とし込むことが大変でした。現場でキャスト……私たちは現場で働く従業員の事をそう呼んでいるのですが……キャストが実践してなんぼです。ここが苦労した点です。外部に研修に出したり、教科書を経費で出して、作文を提出させたり」
――教科書というのは、ヘアカットの技術書とかではなくて?
築林「違います。経営の本です。経営感覚を持った職人さんになって欲しい。職人さんを否定はしないのですが、職人としての感覚だけだと視野が狭くなります。私も就職していた時代は、技術技術でした。すると感覚として、お客様の頭じゃなくて、練習台に見えてくるのです。コスト意識も、利益意識も、顧客満足意識もない。そんなものは教えられなかった」
――利益意識や顧客満足意識を持つというのが経営感覚を持つということなのですね。
築林「それだけではありません。ピーター・ドラッガー(経営学者)が言うように、人生も経営なのです。家族も経営だし、経営を通して自分の人生を考えたり」
――キャストの方の反応はどうでしたか。
築林「はじめはすごい抵抗されましたよ。美容師なのになぜ経営の勉強をしないといけないのか。店頭販売にしてもすごく抵抗された。特に中途採用で入っていただいた方だと、価値観を共有できる確率は低かったですね。私も若かったので、言って聞かせる力もなくて」
――それでannのキャストは新卒から採用なのですね。
築林「価値観の共有を大事にして、こういうことを始めて10数年。最初は幹部から浸透していって、今では新入社員で入ってきても、上から伝えられるようになりました。ただプロパー社員はあまりにも清らかになりすぎて、ひ弱な面もあります。そういう面では中途採用を検討していくのはありです。新卒を取ることが目的ではなく、理念の浸透、価値観の共有が目的なのです」

こうして拡大路線のつまずきを、粘り強く価値観の共有を図る「働き方改革」で乗り越えた株式会社アンですが、10年たって新しい課題に突き当たることになります。

 

■第2の働き方改革

――一方、第2のブランドであるママサロン「annie」は、逆に中途採用です。これは何故なのでしょうか?
築林「5年前、当時メインのキャストの年齢が20代後半から30代だった頃です。毎年、年始に将来のことを書いてもらうのですが、みんな5年後の将来が空白なのです。うちのキャストは女性が85%。結婚や妊娠、子育てがあって、一生働きたいけれど将来どうなるのだろう。誰も将来が見えないのです。これはやばい。先を見せてあげないといけないと思ったのです」
――それでママになっても働けるannieが出来たのですね。
築林「すぐに出来たわけではありません。この意思決定をしたのは5年前で、時間をかけて制度を整えて、まず組織の編成も変えた。人事も変えました」
原「働き方も、結婚しても、子どもがいても働けるかを模索する中でダイバーシティ制度が出来ました。これは働き方を27通りから選べるようにしたものです。色んなコースを作りましたね。結婚はしないけれどプライベートを大切にとか、店長をやりながらでも時短で働く、結婚もしながら時短で働く……まだまだ実験段階ですが」
――ダイバーシティというと多様性のことで、社会における人種や民族、性別、性的志向の多様性を認めることと捉えられますが、こちらでは?
築林「時間のことですね。働き方を選ぶことができる。そうして1年半前に店舗を立ち上げました」

――社内の組織や人事も変え、勤務制度も整えて、いよいよ店舗も始まったのですね。
築林「岸和田の近くで、長い間働いていなかった方を中途で採用したのです。皆、ママサロンで働けることをすごく喜んでくれています。こんなに良くしてくれるのかと(笑)」
原「プロパーの社員じゃないから、うちの良さがわかるというところもありますね。プロパーの社員も外部から入った人の声で、うちの価値がはじめて分かったり」
築林「中途で入った人たちは、意識も高くてしっかりしています。そしてマーケティング的にもマッチしているのです。annieではアシスタントがおらず、シャンプーから最後まで全部1人のキャストが行うのですが、マンツーマンでしてほしいという顧客のニーズにマッチしたのです。annieをキャストの憧れの場にしようという掛け声は、最初半信半疑だったのですが、今では本当に憧れの場になってきましたね」
――キャストの方にも目標が出来た。
築林「副次的ですが、一番大きな効果は若い子に夢を与えたことだと思います。この意思決定を発表した時、一気にモチベーションがあがった。ダイバーシティ制度もあるけれど、annieというシンボリックな店が出来たことは良かった。今振り返れば、5年前の意思決定は分岐点でした。勇気はいりましたけど、あの時に意思決定をしたから今幹部になっている上の子たちが残ってくれている。あの意思決定をしていなかったら、うちは持たなかったと思います」

▲annieはキャストにとっても憧れのブランドになった。

こうして勇気をもって第2の働き方改革を断行し、丁寧に時間もかけて従業員のモチベーションをあげることにも成功しました。しかし、その結果、ある構造的な不具合も生まれていました。

 

■若い人たちの実践の場を新ブランドとして

――2つのブランドを立ち上げて、現在9店舗にまで拡大しましたが、来年新しいブランドで店舗を立ち上げるそうですね。
築林「これはダイバーシティ制度とママサロンを設立した当初からある程度予測していたことなのですが、これまでは長年勤めていたキャストが結婚や子育てを機に辞めることで、若いキャストに活躍の場が巡ってきていた。しかし、上が辞めなくなると下が詰まってくるのですよ。若い子もスタイリストデビューしたいのにチャンスがなくて、モチベーションが上がらない。お店にとっても、若い子につくであろう新しいお客様も入ってこない。そこで1年前から(新ブランドの)物件を探しはじめて、いい物件を見つけたので行こうと。11月に社内で発表したのですが、一気にモチベーションがあがりました」
――1年前ということは、annieをオープンして間もない頃ですね。新しいブランドはどんな特徴があるのですか。
築林「料金は低めに設定して、4年目ぐらいの若いキャストに半年ぐらいのローテーションで働いてもらいます」
――若い方にとっては、腕を振るう事が出来る場ですし、若いお客様にとっても料金が低めで年の近いキャストの方が担当してくれるのは利用しやすいですね。
築林「若いキャストにとっては実践の場で、教育サロンに少し近い面もありますね」

 

■夢のある提案をし続ける

――お話を伺っていると、モチベーションという言葉が再三出てきますね。
築林「私どものような業種は、人が商品だといえますから、人のモチベーションが全てなのです。技術はある程度年数を続ければつきます。しかしいくら技術が高くなってもモチベーションが低いと宝の持ち腐れです。慰安旅行とかも行いますが、それは目先だけのことです。キャストにとって一番のモチベーションが上がるのは、明るい未来を見せること。5年後、10年後の明るい未来を見せることです」
――確かに。将来への不安を抱えていると日々の仕事もなんのためにしているのだろうってなりますものね。
築林「ただ至れり尽くせりに思われるかもしれませんが、うちは案外厳しい部分はあるのですよ。うちは環境を作るけれど、頑張るのは君たちだよ。勝ち取るのは君たちの仕事。道は作るけれど、そこを登っていくか登っていかないかは君が決めろ。登っていくならサポートするよ、と言っています。私たちは環境整備事業をしているようなものですね」

2018年には創業30周年を迎えるという株式会社アンさん。一度は大きな危機を迎えたものの、“経営”に力を入れ、お客様だけでなく働く人の幸せにも力を注いだことで、10店舗目をオープンするまでに拡大し、更に10年後には年商の倍増を目指します。
従業員のモチベーションを格段に上昇させたダイバーシティ制度は、設備投資や高度な技術がいるわけではない、どこの企業でも取り入れようと思えばできる制度のように思えますが、そこに至るまでの長い意識改革の取り組みがあってのものでした。時間はかかるかもしれませんが、多くの企業にも取り組んでほしい働き方改革ですね。

さかマガ5月号 4/20発行!!
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