かつて堺が酒造りの街として栄えていたことをご存知ですか?
明治、大正時代にはお酒の蔵元が約100件もあり、「堺の酒」は全国的にも名前が知られていたといいます。
▲※イメージ 堺の酒は船で全国や海外へ運ばれたようです。
堺といえば、刃物や自転車、線香などが思い浮かびますが、実は大正時代までは堺の製造業の第一位は酒造業が占めていたんだとか。
それほど栄えていた酒造業も、昭和に入ると戦争による蔵の焼失や都市開発による水質の悪化で蔵元が激減。昭和46年には最後に残った蔵元も閉蔵し、ついに堺の酒造りの火は消えてしまったそうです。
堺に酒蔵が無くなってから約50年・・・。
「もう一度、堺で酒造りを」「堺の地酒が飲みたい」と言う地元の有志が集まり酒造りプロジェクトが始動。その熱い想いに応える形で2005年に誕生したのが『利休蔵(旧堺泉酒造)』です。
今回、さかにゅーでは堺で唯一の造り酒屋『利休蔵』を見学させていただきました!
お話を伺ったのは、蔵主(オーナー)の加藤さん、杜氏(とうじ:お酒を作る職人さん)の大津さん。
▲ 左:蔵主の加藤さん 右:杜氏の大津さん
金剛山系湧水で堺らしい「甘い酒」が復活
昔ながらの堺の酒の特徴は「甘い」ことなんだそうです。
日本酒の主な原料は、米・水・麹(こうじ)。シンプルだからこそ、素材にも徹底したこだわりがありました。
使用する米は、日本TOPクラスの品質を誇る兵庫県産の山田錦。
仕込み水は地元、金剛山の湧き水を使用。なんと、金剛山に専用の水汲み場を設け、常に新鮮な湧き水が日本酒造りに使われています。
「当時の酒を再現するため原材料から復活させようと考え、金剛山の湧き水に辿り着きました。茶人・千利休もこの地のこの水を好んでお茶に使ったのではないでしょうか。」(加藤さん)
「金剛山の湧き水は、ミネラル分の少ない軟水です。軟水と硬水とでは、出来上がる酒の味が全く違います。軟水で造った日本酒は、まろやかで柔らかい口あたりが特徴です。」(大津さん)
実際に湧き水を試飲させていただきましたが、口に含んだ瞬間にまろやかさを感じ、スッと溶け込むように体に入っていきました。
この軟水を使うことで、堺の「甘い酒」により近づけたそうです。
ちなみに酒どころとして有名な灘などは硬水を使った「キレのある酒」とのことなので、飲み比べても面白そうですね。
本物の酒造りと技術の伝承
杜氏の大津さんがこだわるのは、本当の、本物の、本流の日本酒。
「昔の酒造りは蔵に泊まりこんで行うものでした。もしかしたら私は、そのような昔ながらの酒造りを体験した最後の世代かもしれません。せっかく堺の地に復活した酒蔵です。技術はもちろんですが、このような伝統を若い世代に伝えていくのも私の役割だと感じています。」(大津さん)
日本酒に欠かせない麹(こうじ)はここで造られます。お酒の質を左右するほど重要な工程で、杜氏にとってとても神聖な場所でもあります。
「もろみ」と呼ばれる日本酒の前段階。原料が混ぜ合わさり発酵した状態で独特の香りが漂います。
原料を数回に分けて混ぜ合わせ、ゆっくりと発酵させることが重要で、通常は3回に分けて行う「三段仕込み」が一般的です。『利休蔵』では倍以上の手間をかける「八段仕込み」も行っており、それによって「甘い酒」が出来上がります。
3週間から1カ月ほどの発酵期間が終わると、もろみを絞って、日本酒と酒粕に分ける工程へと進みます。いつ絞るかによって日本酒の味が決まるので杜氏の知識や経験がものをいいます。
もろみを絞って、できたばかりの日本酒はお茶のような色をしていました。とても甘い香りが漂っています。
そして、そして、実際に出来立ての「生酒」を試飲させていただきました!(わ〜い!そのために取材には電車で向かいました。笑)
ゴクリ。
お!おぉぉぉ!
おいし〜い!な、なんですか、このフルーティさは!
爽やかな香り、やわらかな口当たり、口に広がるやさしい甘さ、それでいてすっきり。
話には聞いていましたがこれが本物の堺の酒ですか。
百聞は一見にしかず。いや、一献にしかず。ですね。
堺らしい地酒を追求し、丹精を込めて酒造りを行う杜氏の大津さん。
「堺の方に認めてもらえる本物のお酒を造りたいという思いで酒造りに向き合っています。」
静かな語り口ながら、大津さんからは日本酒に対する熱い想いがひしひしと伝わってきました!
新たなチャレンジ!酒蔵に無限の可能性
2年ほど前に蔵主となった加藤さん。異業種で培った豊富な経験と柔軟なアイデアで新たな試みを次々に実行されています。
通常は産業廃棄物として処分される酒粕をペットフードや美容用品へ活用するプロジェクトは各業界と連携し着々と進行中。新型コロナウイルス対策として取り扱いを開始した手指消毒用エタノールを、堺市危機管理室・医療機関・教育施設へ寄贈するなど積極的に地域貢献もされています。
そして、現在『利休蔵』で人気商品となっているのが加藤さんが手がけた日本酒とお茶を組み合わせたリキュール「妙cha」。
▲さくら抹茶・抹茶・ほうじ茶
お茶の風味と日本酒ののどごしが絶妙にマッチしていて、「妙cha」をきっかけに日本酒に興味を持つ方も増えているそうです。
海外からの人気も高く、日本酒とお茶を通して日本の魅力を堺から世界に発信されています。
「妙chaにはNo.1、No.2、No.3と番号がついていますが、これは人気順という訳ではありません。世界には、紅茶やマテ茶などその国ごとに親しまれているお茶がありますよね。今後は、そういったお茶と日本酒を組み合わせた各国で親しまれる妙chaも発売していきたいという狙いがあります。」(加藤さん)
キャンペーン開催!
なんと今回、この「妙cha」を使ったインスタによるコンテストの開催が決定!
詳細はこちらの画像をご参照ください。
この機会にぜひ新しい飲み方を発見して、みんなにシェアしてください〜!
文化の再現「酒蔵のある街」堺
「かつてお酒で栄えた堺の街。当時のお酒の美味しさは復活させることができました。次の目標は蔵のある街並みの再現です。ただお酒を造るだけではなく、日本の文化を伝えていくのも私たちの役目だと思います。」(加藤さん)
昔ながらの酒蔵のある街並みが再現されたらとても素敵!これは楽しみです。
私たちにとってもかつての堺を感じられる場所になりそうですし、海外からの観光客の方にもきっと喜ばれますよね。
造り酒屋の軒先には、このような杉玉(すぎだま)と呼ばれる飾りが吊るされています。お酒の神様を祭る奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)で、毎年11/14に「おいしいお酒ができるように」という願いを込めて杉玉を飾る風習が由来なんだとか。
「今年も新酒ができました!」という目印でもあり、2~3月の新酒の季節から杉玉が飾られることが多いそうです。最初は杉本来の緑色をしていて、夏頃にはだんだんと緑が薄くなり、秋ごろには枯れて茶色くなります。
100年前の堺の街ではあちこちの酒蔵にこのような杉玉が飾られていて、緑色は新酒の季節、薄い緑は夏酒、枯れた茶色はひやおろしの季節というように、きっと杉玉の色で季節を感じながら旬の酒を楽しんでいたんでしょうね。
今回の取材では、これまで知らなかった堺の魅力、日本酒の魅力をたくさん感じることができました!(そもそも堺がお酒で栄えていたことも知りませんでした…)
堺で唯一の造り酒屋『利休蔵』。杜氏さんの造る本物の日本酒を軸に、蔵主のアイデアでこれからも地域を盛り上げる存在となっていただけそうですね。
利休蔵・商品購入について
これをきっかけにぜひ、堺の酒を味わってみませんか?
『利休蔵』のお酒はこちらで購入可能です。
お酒は20歳を過ぎてから。飲酒運転は法律で禁止されています。
妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
住所:堺市堺区甲斐町西3丁3-4
電話:072-222-0707
営業時間:AM10:00~PM5:00
定休日:土曜、日曜、祝日/年末年始
蔵での店頭販売もおこなっております。
HP:https://sennorikyu-nihonshu.jp/